コラム
認知症と診断された場合の相続対策の進め方!注意点や対応方法について解説します
超高齢化社会の到来により、「(存命中の)被相続人」や「相続人」が認知症を患らうケースが増加しています。認知症になると、判断能力が低下するため「有効な遺言書を作成できない」「遺産分割協議ができない」など、相続手続きに大きな影響をおよぼす可能性があります。
本記事では、被相続人または相続人が認知症になった場合の注意点や、対応方法について詳しく解説するとともに、相続対策として有効な手段をご紹介します。事前に適切な対策を講じることで、将来のトラブルを回避し、円滑な相続を実現できるようサポートいたします。
1.超高齢化で親が認知症になるリスクが拡大
近年の日本は、世界でも類を見ないスピードで高齢化が進んでいます。厚生労働省の発表によると、2022年の65歳以上の高齢者人口は3,627万人と過去最多を更新し、総人口に占める割合は29.1%に達しました。これは、国民の約3人に1人が高齢者であることを意味します。
高齢者人口の増加に伴い、認知症患者数も増加傾向にあります。2025年には、65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症になると推計されており、親が認知症になるリスクはますます高まっています。
このような状況下にあっては、父親(被相続人)と母親(相続人)の両方に、認知症になる可能性があり、双方の立場での相続対策が必要になります
2.親が認知症になった場合の5つの注意点
認知症になると、遺産分割協議や預貯金の管理など、様々な場面で支障をきたす可能性があります。どのような問題が発生するのか、具体的な例を挙げながら5つの注意点を詳しく解説します。
1)遺産分割協議ができない
遺産分割協議は、相続人全員で遺産の分け方を話し合い、合意によって決定する手続きです。しかし、認知症によって判断能力が低下した相続人は、この遺産分割協議で意思決定することができません。
例えば、父親が亡くなり、母親と子供2人が相続人となったケースを考えてみましょう。もし、母親が認知症を患っていた場合、基本的に法律行為ができないため、遺産分割協議に関する決定もできません。したがって、法律上は母親にも相続権があるため、子供2人だけでは遺産分割できないことになります。
このような場合、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらう必要があります。成年後見人は、認知症の母親の代わりに遺産分割協議に参加し、母親の利益を守る役割を担います。しかし、成年後見人を選任する手続きには時間と費用がかかり、相続手続き全体が長期化する可能性があり要注意です。
2)不動産が共有名義になる
遺産分割協議がまとまらないまま相続手続きが進むと、不動産が相続人全員の共有名義になってしまうことがあります。共有名義の不動産は、売却や賃貸、リフォームなどを行う際に、共有者全員の同意が必要となります。
例えば、先ほどのケースで、母親が認知症のため遺産分割協議がまとまらず、自宅が子供2人と母親の共有名義になったとします。その後、子供の1人が自宅を売却して現金化したいと考えたとしても、認知症の母親の同意を得ることが難しく、売却ができない状況に陥る可能性があります。
このように、共有名義の不動産は、将来の活用や処分において大きな制約となる可能性があるため、注意が必要です。
3)預貯金の払い戻しができない
認知症と診断されると、金融機関では、預貯金の払い戻しや解約に制限がかかる場合があります。これは、本人の判断能力が低下しているため、悪意のある第三者による不正な取引を防止するための措置です。
例えば、認知症の母親が単独で銀行口座を所有している場合、窓口で預貯金の払い戻しをしようとすると、銀行員から認知症の程度を確認する書類の提出を求められることがあります。また、場合によっては、成年後見人を選任しなければ、預貯金の払い戻しが一切できないケースも考えられます。
相続手続きでは相続税の納付や、遺産分割のための資金が必要となる場合があり、預貯金の払い戻しが制限されると、相続手続きが滞ってしまう可能性があります。
4)有効な遺言書が書けなくなる
遺言書は、自分の死後に財産をどのように分配するかを記した重要な書類です。しかし、遺言書を作成するには、遺言内容を理解し、自分の意思を明確に伝える判断能力が必要です。
被相続人の認知症が進行すると、意思能力がないとみなされ、有効な遺言書を作成できなくなります。そのため、認知症を発症する前に、将来の相続について考え、有効な遺言書を作成しておくことが重要です。
5)相続対策ができなくなる
相続対策は、生前に計画的に行うことで、相続税の節税や遺産分割協議の円滑化を図ることができます。しかし、被相続人が認知症を発症してしまうと、相続対策を行うための意思能力が低下し、適切な対策を講じることが困難になります。
例えば、生前贈与や家族信託といった相続対策は、認知症になる前に手続きを進めておく必要があります。認知症を発症後にこれらの対策を検討しようとしても、本人の意思確認が難しく、法的な手続きを進めることができなくなる可能性があります。
認知症は、いつ発症するか分かりません。そのため、将来の相続トラブルを防止するためにも、早いうちから対策について検討し、専門家に相談するなどして、適切な準備を進めておくことをおすすめします。
3.認知症に備える相続対策4選
被相続人が認知症を発症する前はもちろんのこと、発症後であっても軽度で判断能力が残っていれば、財産管理や相続について対策を行うことが可能です。
ケーススタディ)
佐藤さん一家は、夫と妻、そして2人の子供からなる4人家族です。夫の健一さんは75歳になり、最近では物忘れが目立つようになってきました。将来、認知症と診断される可能性も考え、今のうちに相続対策をしておきたいと考えています。健一さんの主な財産は、自宅と預貯金です。 |
1)公正証書遺言などの作成
遺言書は、自身の死後、財産をどのように分配するかを記した重要な書類です。遺言書を作成しておくことで、自分の意思を明確に示し、遺産分割協議をスムーズに進めることができます。
遺言書には、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言の3種類があります。このうち、公正証書遺言は、公証役場で作成するため、原本が保管され、紛失や改ざんの心配がありません。また、家庭裁判所の検認手続きが不要なため、相続手続きを迅速に進めることができます。
万が一、認知症と診断された場合でも、公正証書遺言であれば作成時期も明確なため、「認知症になってから作成したので無効!」などのトラブルも回避でき安心です。
健一さんの場合、認知症が進行する前に、公正証書遺言を作成しておくことで、将来の相続トラブルを予防できます。例えば、自宅を妻に、預貯金を子供たちに均等に相続させるという内容の遺言書を作成しておくことで、健一さんの意思に基づいた遺産分割を行うことができます。
2)生前贈与を行う
生前贈与とは、相続が発生する前に、財産を贈与することをいいます。生前贈与を行うことで、相続財産を減らし、相続税の節税効果が期待できます。基礎控除額として年間110万円まで非課税となりますので、計画的に行えば非常に効果的です。
健一さんの場合、子供たちに毎年110万円ずつ贈与することで、贈与税を支払うことなく、相続財産を減らすことができます。また相続時精算課税制度を利用して2,500万円まで(別途基礎控除110万円あり)、非課税で贈与できる制度もあります。認知症が心配な場合には、先にまとまった金額の生前贈与を行っておくのも1つの方法です。
贈与については令和6年より通常の暦年贈与、相続時精算課税による贈与について税制改正があり通常の暦年贈与は相続時に加算計算の対象が3年から7年へ、一方で精算課税制度による贈与については110万円まで基礎控除が創設されました。そのため、生前贈与のやり方も長期的により細かく贈与するなどの工夫が必要となりました。
3)成年後見制度を利用する
成年後見制度は、認知症などで判断能力が低下した方を保護するための制度です。家庭裁判所に申し立てを行い、成年後見人を選任してもらうことで、財産の管理や法律行為を代理で行ってもらうことができます。
健一さんの場合、認知症が進行した場合に備え、成年後見制度を利用することも検討できます。信頼できる専門家などを、事前に成年後見人として選任しておくことで、健一さんの財産を適切に管理できます。
4)家族信託を利用する
家族信託とは、信頼できる家族に財産の管理や処分を託すことができる制度です。認知症になる前に、家族信託契約を締結しておくことで、将来の財産管理をスムーズに行うことができます。
家族信託では、委託者、受託者、受益者を定めます。委託者は財産を託す人で、受託者は財産を管理・処分する人、受益者は財産の利益を受ける人です。健一さんを委託者・受益者、子供を受託者とする家族信託契約を締結することで、健一さんの財産を子供に管理してもらうことができます。
参考:法務局「家族信託とは?」
4.認知症の相続対策は「税理士法人 翔和会計」へお任せください
相続対策は、可能なかぎり認知症の発症前に行うことが重要です。しかし、実際には認知症と診断されてから、慌てて対策を検討するケースも多いのが実状です。さらに、いざ対策を始めようと思っても、何から手をつければ良いのかわからず、お悩みの方も少なくありません。
「税理士法人 翔和会計」は、相続に関する豊富な知識と経験を持つ税理士が、お客様1人ひとりの状況に合わせて最適な相続対策をサポートいたします。認知症の相続対策は、将来のトラブルを未然に防ぎ、ご家族が安心して暮らせるようにするための重要な準備です。相続対策についてお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。 |
参考:認知症の人が書いた遺言書は有効?無効にしないためにできること