相続コラム
建築中の家屋の評価額について具体例をもとに解説
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相続が発生した際、故人(被相続人)が所有していた財産の中に、建築途中の家屋が含まれている場合、その評価方法に戸惑う方も少なくありません。
完成した家屋であれば固定資産税評価額をもとに算出できますが、建築中の家屋にはそれが存在しないため、国税庁の評価ルールが適用されます。この評価は、相続税額を正確に算出するうえで非常に重要な要素となりますので、これを機会に把握しておきましょう。
そこで本記事では、建築中の家屋の評価について、基本的な考え方から具体的な計算事例まで、詳しく解説します。
【目次】
1.完成した家屋の評価方法
完成した家屋の評価は、比較的シンプルで、原則として、その家屋の固定資産税評価額に1.0を乗じて計算した金額となります。したがって、その評価額は、固定資産税評価額と同じ金額です。
固定資産税評価額は、各市町村が固定資産税を課税するために算定するものであり、一般的に実勢価格よりも低く評価される傾向にあります。この評価額は、毎年4月~6月ごろに送付される固定資産税納税通知書の課税明細書等に記載されており、確認も容易です。

2.相続税評価における建築中の家屋とは?
相続税評価における建築中の家屋とは、被相続人が亡くなった時点(課税時期)において、まだ建築工事が完了しておらず、居住や事業の用に供されていない状態の家屋を指します。
具体的には、基礎工事が始まってから、建物が引き渡されるまでの期間にある建物がこれに該当します。登記が完了しているか否かは関係なく、物理的に建築が進行している状況であれば、建築中の家屋として評価の対象となります。
完成した家屋とは異なり、まだ固定資産税評価額が定まっていないため、国税庁通達の評価方法が適用されることになります。

3.建築中の家屋の評価方法
相続税における建築中の家屋の評価は、完成した家屋とは異なるルールにもとづいて行われます。これは、完成に至っていない建物に対して、適切な評価額を算定するために設けられたものです。ここでは、その基本的な考え方と評価の原則について詳しく解説します。
1)建築中の家屋には固定資産税評価額がない
完成した家屋の評価は、その家屋の固定資産税評価額をもとに行われます。しかし、建築中の家屋は、まだ固定資産税が課税される状態ではないため、当然ながら固定資産税評価額も存在しません。
この点が、建築中の家屋の評価を複雑にする大きな要因となります。固定資産税評価額がない以上、別の基準で評価額を算定する必要があるのです。
2)その家屋の費用現価の70%相当額で評価
建築中の家屋の価額は、その家屋の費用現価の額に70%を乗じて計算した金額によって評価されます。この算式は、建築中の家屋の評価において最も重要な部分であり、その具体的な概要や流れを理解することが不可欠です。
建築中の家屋の価額 = 費用現価の額 × 70% |
参考:国税庁 財産評価基本通達「第3章 家屋及び家屋の上に存する権利 91(建築中の家屋の評価)」
3)費用現価の70%とは?
この算式における費用の現価額とは、課税時期(相続または遺贈の場合は被相続人の死亡の日、贈与の場合は贈与により財産を取得した日)までにその家屋に投下された建築費用の額を、課税時期の価額に調整した額の合計のことをいいます。
つまり、被相続人が亡くなった日までに、その家屋の建築のために実際に支払われた費用や、支払いはまだでも工事の進捗に応じて発生している費用を、課税時期の価値に換算したものです。
70%を乗じる理由としては、建築途中の家屋は完成品ではないため、たとえ投下された費用が同額であったとしても、完成した家屋と同等の価値は有しないという考え方にもとづいています。また、未完成であることによる売却時の不確実性や、引き継ぎにかかる手間などを考慮して、一定の割合を減額する措置と考えられます。
費用現価額を算定する際には、請負契約書や工事費明細書、支払い領収書など、実際に発生した費用がわかる資料をもとに積み上げていくことになります。これらの資料が整備されていない場合や、不明瞭な点がある場合は、建築業者に確認し、正確な費用を把握することが重要です。

4.具体例でわかる!建築中の家屋の評価額計算
建築中の家屋の評価額計算は、具体的な事例を用いることで、より明確に理解できます。ここでは、実際の数字を使いながら、費用現価の考え方と70%を乗じる計算プロセスを段階的に解説します。
1)事例
まず、具体的な計算に用いる事例を設定します。
建築工事の請負代金:5,000万円 課税時期における工事進捗率:50% 建築業者に対して支払った金額:3,500万円 |
この事例では、請負契約の総額が5,000万円であり、被相続人の死亡日(課税時期)時点では、工事が全体の50%まで進捗していたとします。また、実際に被相続人が建築業者に支払った金額は3,500万円という状況です。
2)計算方法
この事例をもとに、建築中の家屋の評価額を計算していきます。重要なのは、「費用現価」の考え方です。費用現価とは、課税時期までにその家屋に投下された建築費用の額を、課税時期の価額に修正した額の合計額を指します。
①工事進捗率に対する費用現価を計算
費用現価は、請負代金総額に工事進捗率を乗じて算出します。これは、総額のうち、課税時期までにどの程度の工事が進んだかという割合にもとづいて、費用の積み上がりを評価するためです。
5,000万円(請負代金)×50%(工事進捗率)=2,500万円 |
この2,500万円が、課税時期における費用現価額となります。ここで注意すべきは、実際に被相続人が支払った金額が3,500万円であっても、費用現価は工事進捗率にもとづいて算出されるという点です。
請負契約では、着手金や中間金として、工事進捗率以上の金額を前払いしているケースも少なくありません。しかし、相続税評価における費用現価は、あくまで「その時点までに投下された費用」であり、これは通常、工事の進捗に応じて発生すると考えられます。そのため、工事進捗率を基準に費用現価を算出するのが一般的です。
②建築中の家屋の価格
算出した費用現価に、評価減の割合である70%を乗じます。
2,500万円(費用現価)×70%=1,750万円 |
したがって、この事例における建築中の家屋の相続税評価額は1,750万円となります。
このように建築中の家屋の評価は、請負契約書の総額と工事進捗率をもとに費用現価を算出し、そこに70%を乗じることで、その時点での適切な評価額を導き出します。したがって、正確な工事進捗率の把握や、請負契約の内容確認が非常に重要となります。

5.建築中の家屋の相続税評価は専門家へ
建築中の家屋の相続税評価は、完成した家屋の評価とは異なり、固定資産税評価額が存在しないため、国税庁の財産評価基本通達にもとづいた計算が求められます。費用現価の考え方や、工事進捗率にもとづく評価額の算出は、専門知識がなければ正確に行うことが困難な場合もございます。
また、請負契約の内容や実際の工事状況によっても評価額が変動する可能性があり、これらの情報を適切に把握し、評価に反映させることが重要です。相続税申告においては、財産の評価を1つでも誤ると、税額に大きな影響をおよぼす可能性があります。
建築中の家屋の相続税評価についてご不明な点がございましたら、税理士法人翔和会計までお気軽にご相談ください。経験豊富な専門家が、お客様の状況に応じた適切なアドバイスを提供し、正確な評価と円滑な相続手続きをサポートさせていただきます。 |
