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相続税の配偶者控除とは?適用要件と損をしないための注意点を解説
投稿: 更新:ブログ
相続税には、被相続人の配偶者の生活を守るため「配偶者控除」という制度が設けられています。
利用すれば大きな節税になりますが、使い方を間違えると結果的に家族の税負担が増えることになる落とし穴があるのはご存知でしょうか。
この記事では、相続税の配偶者控除の適用要件や注意点について解説いたします。
【目次】
相続税の配偶者控除とは
相続税の配偶者控除とは、相続の際に配偶者が受け取る財産について、次のうちどちらか多い方の金額までは、相続税がかからないという制度です。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分
つまり、配偶者の相続した遺産額が1億6,000万円以下であれば相続税は0円です。1億6,000万円を超えたとしても、法定相続分までであれば相続税は課税されません。
この控除により、配偶者が財産を相続する際の税負担が軽減され、生活の安定が図られることを目的としています。
配偶者控除の適用要件
一般的な家庭の相続では、配偶者控除を適用することで、配偶者に相続税が課税されない場合がほとんどです。
しかし、この制度の適用には以下の要件を満たしている必要があります。
- 戸籍上の配偶者であること
- 遺産分割が完了していること
- 相続税の申告書を税務署に提出すること
戸籍上の配偶者であること
配偶者控除を受けられるのは、被相続人の戸籍上の配偶者です。戸籍に登録されていない状態、つまり内縁の妻などは戸籍上の配偶者に該当しないため、相続税の配偶者控除を受けることはできません。
なお、婚姻期間は定められていないため、婚姻期間が1ヶ月だったとしても適用されます。
遺産分割が完了していること
相続税の配偶者控除を受けるためには、相続人全員で遺産分割について話し合い、合意が確定している必要があります。この話し合いを遺産分割協議と呼びますが、遺産分割協議が行われていない、または遺産の分け方が決まっていない場合、配偶者控除を受けることはできません。
したがって、この適用を行う場合には相続税の申告期限までに遺産分割が成立し分割協議書を作成していることが前提となります。
ただし、相続税の申告期限までに遺産分割が完了しない場合は、申告期限内に未分割申告を行うとともに「分割見込書の提出」、その上で3年以内に遺産分割協議がまとまった際に更正の請求を行うことで、相続税の配偶者控除の適用が可能です。
また、相続税の申告義務があることを知らなかったり、後から多額の財産が出てきた場合などで期限内に申告ができなかったケースでも自主的に「期限後申告の提出」及び「分割見込書の提出」をおこなうことで配偶者の税額軽減を適用することも可能です。しかし、これはイレギュラーな方法であり、手間や時間がかかるため、なるべく期限内に遺産分割を完了させることをおすすめします。
相続税の申告書を税務署に提出すること
配偶者控除を受けるためには、税務署に相続税の申告書を提出する必要があります。配偶者控除を受けると相続税が0円になるため、申告手続きが不要と考える方も多いですが、申告手続きを行わなければ配偶者控除を受けることはできません。
配偶者控除の計算例
配偶者控除の考え方を具体例を用いて解説します。
ここでは、遺産2億円を配偶者、長女、次女の3人が相続すると仮定します。
①基礎控除額の確認
基礎控除額は【3,000万円+600万円×法定相続人の数】で求められます。
よって、今回の基礎控除額は
3,000万円+600万円×3人=4,800万円 となります。
②課税遺産総額の算出
遺産総額から基礎控除額を引いて、
2億円 – 4,800万円=1億5,200万円 が課税遺産総額になります。
③相続税の総額を算出
一旦、法定相続分で分割したと仮定して各相続人の相続税を計算します。
こちらは【課税遺産総額 × 法定相続分 × 相続税率 – 控除額】で求められます。
これに各相続人の数値を当てはめると以下のようになります。
配偶者:1億5,200万円 × 1/2 × 30% – 700万円=1,580万円 子:1億5,200万円 × 1/4 × 20% – 200万円=560万円 子:1億5,200万円 × 1/4 × 20% – 200万円=560万円 |
よって相続税の総額は、
1,580万円 + 560万円 + 560万円=2,700万円 となります。
④各相続人の相続税を計算
実際の相続割合に合わせて、各相続人の相続税を計算します。
ここでは、そのまま法定相続分通りに分割したとします。
それぞれの相続税は以下です。
配偶者:2,700万円 × 1/2=1,350万円
子:2,700万円 × 1/4=675万円
子:2,700万円 × 1/4=675万円
⑤配偶者控除の適用
配偶者の相続額は1/2の1億円で、1億6,000万円以下であるため、配偶者控除を使えば配偶者の
相続税は0円となります。
配偶者控除の注意点
相続税の配偶者控除を利用する際は、以下のようなことに注意しましょう。
二次相続まで考えて遺産分割する
相続税の配偶者控除を最大限活用しても、その家族の相続税が必ずしも安くなるとは限りません。
確かに、配偶者控除を適用して配偶者がすべての遺産を相続する場合、正味の遺産額が1億6,000万円までであれば相続税はかかりません。そのため、「母がすべての遺産を相続すれば相続税が安くなる」と考える家庭も多くあります。
しかし、配偶者が亡くなった際の「二次相続」まで考えた場合、配偶者控除を最大限に活用することが必ずしも相続税を一番軽減する遺産分割方法とは言えないのです。
(例)
父親の財産が2億円あり、母と子で相続する場合を想定してみましょう。
一次相続において、以下2つのパターンで相続した場合にかかる相続税を比較した表が以下です。
①母が全額相続する場合
②母と子で1/2ずつ相続した場合
※わかりやすくするため、二次相続は一次相続で母が相続した遺産額をそのまま相続することとします。
一次相続 |
二次相続 |
合計 |
|
母(配偶者)が全額相続 |
0円 |
4,860万円 |
4,860万円 |
母(配偶者)と子で1/2ずつ相続 |
1,670万円 |
1,220万円 |
2,890万円 |
一次相続だけ考えると、母が全額相続したほうが相続税額は抑えられますが、二次相続までの合計額で比較すると、母と子で1/2ずつ相続したほうが2,000万円弱少なくなります。
このように、一次相続で配偶者控除をフル活用しようとすると、かえって子の税負担が大幅に増えてしまう可能性があるのです。配偶者控除を利用する場合は、二次相続まで見据えた遺産分割をおすすめします。
相続税が0円になっても申告が必要
配偶者控除の適用により相続税が0円になっても、税務署への申告は必須です。
これは配偶者控除を受けるために必要な要件の一つであるため、申告をしないと適用されません。
申告を怠ると、配偶者控除が適用されずに相続税を支払わなければならないだけでなく、税務調査によって無申告加算税などのペナルティが科される可能性もあります。
まとめ
相続税の配偶者控除は、遺産総額が1億6千万円まで、または法定相続分までの相続税が免除されるため、大きな節税効果があります。
しかし、適切に活用しないと、予想以上の税金を支払うことになったり、遺産分割協議がまとまらない場合には配偶者控除を受けられなくなったりする可能性があります。さらに、配偶者控除を受けることで相続税が0円になる場合でも、相続税の申告は必要です。
相続税の計算や配偶者控除の要件は非常に複雑ですので、判断に迷う場合は税理士に相談することをおすすめします。
監修者
税理士法人翔和会計
代表社員税理士
田本 啓(たもと あきら)
大学卒業後サービサー(債権回収管理総合事務所)にて債権・不動産を中心としたコンサルティング・登記関連サービス
都内会計事務所にて法人様、個人事業主様、経営者様の決算及び申告(節税対策・税務調査対応・独立開業支援業務を含む)並びに相続税・贈与税申告業務を経験。
クライアント様がより経営に集中できる環境を一番に考え会計・税務の枠を超えた総合的なご提案とキャッシュリッチになるための資金繰り分析・実行コンサル支援の他、セミナー運営や節税商品の企画など幅広いサービスを展開しています。